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2017年6月3日土曜日

最初から最後まで異常な緊張感が持続する:ナンシー・クレスの『ベガーズ・イン・スペイン』|今日のSF


今日のSF。ナンシー・クレスの『ベガーズ・イン・スペイン』である。2009年。短編集。

これがまた傑作中の傑作で。良い点は、(1)最初から最後まで異常な緊張感が持続する。

(2)現代的なテーマの処理。テーマ自体は新人類と旧人類の対立という古典的なものになるのだが、ポイントはそこではなくて、その問題を二十一世紀に生きる我々の社会感覚で考えて処理をしている。このへんが70年代、80年代の作家とは違うところ。こういうテーマの処理の現代的な感覚は、グレック・イーガンとも共通している。たぶん皮肉屋でもあるな。

(3)きめこまかな人間描写。キャラクターの描き方がシリアスで奥が深い。このへんが大衆文学的な作品とは一線を記しているところ。

この中の一編を元にした長編三部作がナンシー・クレスの代表作らしいが、短編の方が出来が良いという話もあるようだ。機会があったら読んでみたいが、その日は来るだろうか。むしろ、中編のベガーズ・イン・スペインを上下二巻くらいの分量で読んでみたい、と思う。内容的にはそれくらいのネタが詰まっている。


内容(「BOOK」データベースより)
21世紀初頭、遺伝子改変技術により睡眠を必要としない子供たちが生まれた。高い知性、美しい容姿だけでなく驚くべき特質を持つ無眠人は、やがて一般人のねたみを買い…「新人類」テーマの傑作と高く評価され、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル読者賞を受賞した表題作をはじめ、ネビュラ賞、スタージョン記念賞を受賞し、“プロバビリティ”3部作のもととなった「密告者」など全7篇を収録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

クレス,ナンシー
1948年生まれ。ニューヨーク州の田舎町で育ち、ニューヨーク州立大学を卒業後、4年ほど小学校で教える。結婚を機に仕事をやめ、子育てのかたわら大学に戻り、教育と文学の修士号を取得。1981年にThe Prince of Morning Bellsで長篇デビュー。1991年アシモフ誌に発表した中篇「ベガーズ・イン・スペイン」でヒューゴー賞、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル読者賞を受賞。1996年同じくアシモフ誌に発表し、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、スタージョン記念賞を受賞した中篇「密告者」の世界をもとに作り上げた『プロバビリティ・ムーン』にはじまる3部作を2000年から発表。第3作『プロバビリティ・スペース』は2003年のジョン・W・キャンベル記念賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 




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2017年5月28日日曜日

太子堂八幡神社の『幸せを呼ぶウサギ』|世界小走り紀行


 うさちゃんである。

さすが神社というところで、敷地が広いので、ずいぶんと広い家に住んでいる。 三羽いて見ていたら、近くに寄ってきた。ウサギというのはよくわからないが、意外と人懐っこい。まだ、小さいウサギだ。

三軒茶屋の太子堂の若林よりの住宅地にあった大きな神社。初めて見た。ずいぶんと大きいが、今まで存在を知らなかった。

昨日は三軒茶屋から梅ヶ丘に行って帰る。二時間の小走り。ちょうど良い季節だ。梅ヶ丘の魚屋、『魚ばっか』で魚を買う。ここはなかなかいいものが安く売っている。


奥のうさ。


大きい。ここに初詣もいいな。

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2017年5月15日月曜日

久しぶりに出来が良い:ディーン・クーンツ『オッド・トーマスの霊感』2009年|今日のホラー


ディーン・クーンツの『オッド・トーマスの霊感』 。2009年である。

クーンツは80年代の全盛期だけすごく良くて、その後、日本の出版が超訳の出版社に変わったあたりから、目も開けられないほど、クオリティが下がった。クーンツも悩んで迷走しているようで、コメディを書いていたりした。しかも、そのギャグがどれひとつおもしろくない、という目を覆うような惨状だった。

それで久しぶりに早川書房に戻ってきた。たぶん、もう70歳近くになってると思うのだが、晩年になって、また復活してようで、これはけっこう良い。最高に良くはないが、なかなか良い。低迷期よりは、はるかに良い。

珍しくシリーズ化したので、評判も良かったのだろう。たぶん、死ぬまで、これだけでいくのではないか。

クーンツの割にはがんばって、キャラクターの人間描写で家族問題などを扱って、ドラマに深みを与えようとしているのだが、もともと、そういう作家ではないので、いかにも取って付けたような描写になっているのが、ほほえましい。

主人公の青年が、クライマックスの前に、まずお父さんに会いに行く。そこでお父さんとの葛藤と家族の問題が描かれる。そこまではいいのだが、次にお母さんに会いに行く。そっちでも、お母さんとの葛藤と家族の問題が描かれる。

こういうのがヘタなのだな。順番に取って付けたように行くこともないと思う。家族問題はどっちかだけにしたほうが良かったんじゃないかな。または、片方の親は、ストーリー中に分散して出しておいて、大きい問題の親の方だけ、山場の前に持ってくるとか。グロとストーリー展開の速さだけが売りの作家なので、こういうのは、得意ではないのである。

とはいえ、これはなかなか出来が良い。低迷したまま終わるかと思っていたので、うれしい。


 内容紹介
オッド・トーマスは南カリフォルニアの町ピコ・ムンドに住む20歳のコック。彼には特異な能力があった。死者の霊が目に見え、霊が伝えたいことがわかるのだ。ある日、オッドは勤務先のレストランで悪霊の取り憑いた男を見て、不吉な予感を覚える。彼は男の家を探し出して中に入るが、そこで数多の悪霊を目撃した。そして翌日に何か恐ろしいことが起きるのを知るが……巨匠が満を持して放つ最高傑作シリーズ、ついに登場!
内容(「BOOK」データベースより)

クーンツ,ディーン
1945年ペンシルヴェニア州に生まれる。子供のころから小説を書き始め、大学を卒業後、数々のアルバイトをしながら小説家をめざした。1968年、長篇第一作となるSF、Star Questを出版。以後、SF、ゴシック・ロマンス、サスペンス小説などをさまざまなペンネームで次々と書き上げた。サイコ・サスペンスの『ウィスパーズ』(1980年)とモダンホラー『ファントム』(1983年)で人気作家の地位を築いたあとは、『ストレンジャーズ』(1986年)、『ウォッチャーズ』(1987年)など、ベストセラー小説を続々と生み出している

中原/裕子
東京生まれ、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)



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2017年5月14日日曜日

ダン・ブラウンでは、いちばん地味だ:ダン・ブラウンの『ロスト・シンボル』|今日のミステリー


 ダン・ブラウンの『ロスト・シンボル』である。ダン・ブラウンなので、そつなく面白いのだが、一連の作品の中では、いちばん地味だ。できが悪いと言っても良い。

ダン・ブラウンは、考古学的な謎を求めて世界中を移動するという展開が多いのだが、今回はワシントンDCの中だけをグルグル回っている。距離的な移動は少ないのだが、そのかわり、時間軸の中を知識的に移動して、深みとダイナックさを出そうという意図だったと思うが、これがあまりうまく行っていない。なので、なかなか、地味な作品になっている。

また、知識的な奥行きという点でも、実のところ、そんな深みのある話が語られてるわけではない。クライマックスのすごい思想にたどり着くというシーンでも、精神と物質世界のつながりが語られているのだが、これはようするに『水に愛情を持って語りかけてから凍らせるときれいな結晶ができる』というレベルの話でしかない。

長い話の終わりなので、ダン・ブラウンはここで感動的なことを語っているつもりなのだが、むしろ、トンデモ本によく出てくるような底の浅い思想である。マイケル・クライトンなら、現実と妄想の区別をきっぱりと付けてから、それを乗り越える衝撃を展開させるところなのだが、ダン・ブラウンは、そういう科学者的な明晰さは、もっていないのだな。

ま、この世には量子物理学というのがあって、認識と物質世界の関係を研究しているようで、そのへんに関連していると言えないこともないが、うまくこなれていないと思う。

途中で主人公が死ぬ場面があって、これは死後の世界と現実のつながりを物理的に明かしていく、という展開になるのか。それは壮大すぎるテーマだが、こなせるのか。と思ったが、そうはならないで、単に実は死んでいなかったのだ、というだけだった。

むしろ、こっちの方のテーマで進めた方が、すごい話になっていたと思うな。

また『世界が転覆するような秘密』を巡って悪人と主人公が駆け巡るというのが、この小説のメインプロットなのだが、この秘密がどんなすごいものかと思ったら、これまた肩透かしで、単に『フリーメーソンの秘密儀式に政府高官が参加していた』というだけだった。

その動画が出てくるのだが、この秘密儀式が昔ながらの、おどろおどろしい、骸骨が出てきたり血を飲むとかいうもので『この動画を公開したら国民の印象が悪くなって政権がひっくり返る』という程度のネタなのだ。

えっ、それだけですか、と言いたくなるだろう。そもそも、それではアメリカ政府が転覆するだけで世界が転覆するわけではないだろう。もちろん、現実では政権がひっくり返るというのは、大事件なのだが、もっとすごいものが出てくるように思わせていて、これだったので、がっかりである。

この 『世界が転覆するような秘密』こそが、『生と死の境目をどうにかする物理的な発見』だったら、さすがに驚いただろうな、と思うのだが。ただ、SFやホラーではないので、この発見を、『バカ話にしないで大人の読者が納得できるように書く』というのは、至難の技でむずかしいと思う。

しかし、このレベルの驚きを最後に提供していないと、このプロットでは成功したとは言えないと思うよ。

構造的には、この二点が問題なのだが、初めに書いたように、例によって、ダン・ブラウンなので、そつなく面白い小説ではある。


内容紹介
世界最大の秘密結社、フリーメイソン。その最高位である歴史学者のピーター・ソロモンに代理で基調講演を頼まれたラングドンは、ワシントンDCへと向かう。しかし会場であるはずの連邦議会議事堂の“ロタンダ”でラングドンを待ち受けていたのは、ピーターの切断された右手首だった!そこには第一の暗号が。ピーターからあるものを託されたラングドンは、CIA保安局局長から、国家の安全保障に関わる暗号解読を依頼されるが。


著者について
米国ニューハンプシャー出身。2003年に発表した第4作の小説『ダ・ヴィンチ・コード』が世界的な大ベストセラーに。父は数学者、母は宗教音楽家。妻は美術史研究者で画家。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ブラウン,ダン
1964~。米ニューハンプシャー生まれ。アマースト大学を卒業後、英語教師から作家へ転身。1998年『パズル・パレス』でデビュー。2003年、4作目となる『ダ・ヴィンチ・コード』を刊行、1週目からベストセラーランキング1位を獲得し、各国でも次々に翻訳出版され、社会現象といえるほどの驚異的な売れ行きとなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 




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2017年5月12日金曜日

あばらが足らぬ:笹塚で発見|壁新聞コレクター


壁新聞コレクター。笹塚で見つけた。

あばらが足らぬ。習字である。これはなんだろうか。たぶん、書いてある文章から見て、九十六歳のていさんが書いたと思われる。この家に住んでいるおばあさんが書いたのか、微笑ましいな……、となると、すぐに納得できるのだが、横の看板を見てもらいたい。

エネフィット。東京ガスの会社である。東京ガスの会社におばあさんが住んでいるのだろうか。フランチャイズ方式になっていて、自宅を改装して東京ガスの会社として使っているなら、おばあさんが住んでいてもおかしくはないが、よくわからない。

『九十六歳のていさん』という、『相田みつを』みたい人がいて、その習字エッセーが世間では流行っていて、それをここの社長が気に入って貼っている可能性もある。それだと、ひじょうにつまらない話になるが、それにしては稚拙で自家製感が強い。けっきょく、よくわからない。

房州というのはどこかと思ったら千葉県南部のあたりのようだ。九十六歳のていさんは千葉県出身らしい。つまり、千葉県の人は昔から遺伝子的な欠陥があり、あばら骨の数が少ない、ということを主張しているようだ。ヘイトクライムの可能性も出てきたな。

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2017年5月8日月曜日

ルパンシリーズをほうふつとさせる行き当たりばったりの展開:『業火』パトリシア・コーンウェル(1998年)|今日のミステリー


『業火』パトリシア・コーンウェル(1998年)である。1998年。これも悪くない。パトリシア・コーンウェルは90年代のものはそれなりにいいようだ。

とは言っても、やはりパトリシア・コーンウェルなので作品に隙が多く、アラがわかりやすく見えている。

今回のアラ。スカーペッタの彼氏のFBIが犯人に焼き殺されてしまうのである。それで、2003年の『黒蠅』の巻で、実はそれは偽装で、焼き殺されたのは別人で本当は生きていた、とわかる。理由はFBIの保護プログラムで、彼氏が『2000年代に入ってからの巻に出てくる別の連続殺人鬼の金持ち一家』に命を狙われていたため……である。

パトリシア・コーンウェルの雑なのはここからで、つまり彼氏は、この1998年の『業火』の時点で、金持ち連続殺人鬼を捜査していて命を狙われているはずなのだが、作品中になんら、それを匂わせる記述がない。

また、さらに 『黒蠅』では、スカーペッタの姪と親友だけは、保護プログラムのための偽装殺人であることを知っていた、と書いてあるが、『業火』中にはそれを匂わせる記述が、もちろんどこにもない。ついでに言うと、保護プログラムだと知っている友人たちと何年も過ごしていて(他の事件捜査をしたりして)、まったくバレないのいうのは、設定が不自然すぎる。

もしかして、この時点では『2000年代に入ってからの巻に出てくる別の連続殺人鬼の金持ち一家』のアイデアはまったくなかったのではないか。

ただ、この時点で、犯人に焼き殺されてしまった、という展開はさすがに単純すぎるので、パトリシア・コーンウェルも保護プログラムのための偽装殺人というのは考えていたと思う。

俺の推測では、この巻の殺人鬼を捕まえるために、一度死んだことにして姿を消した、という展開にするつもりだったのではないか。しかし、これを後になってから、実は別の殺人鬼の捜査のためだった、ということに変えたのではないか。あまりにも伏線がなさすぎるので。

しかし、そこはパトリシア・コーンウェルなので、行き当たりばったりで、一度は殺したけど、やっぱり生きていたことにしようかしら?と、やった疑いも拭いきれない。

三世ではないほうのアルセーヌ・ルパン シリーズの時代の大衆小説のように、絶対絶命の窮地に陥ったが『実は脱出のために気球を隠してあったのじゃ、わっははは!』とプカプカと逃げるような感じで、行き当たりばったりで書いてるのではないか。

そして、恐ろしいことにこの時点では単純に焼き殺されていて、あとで思いつきで生き返らせた、としたほうが、小説内の記述ときれいにあっているのである。これはどうしたことか。

などと、いろいろ考えてるのだが、どうなのだろうか。 パトリシア・コーンウェルさんが読んでいたら、返答をもらいたい。

あと、2000年代になってからの巻で、パトリシア・コーンウェルはスカーペッタたちを、なんの説明もなく20歳くらい若返らせている。訳者が作者に問い合わせをしたそうだが、これにはさすがに驚いた。

小説内の時間だと、登場人物がみんな70過ぎて、引退しないとならないので、若くしたそうだ。 ま、こういう人なんだな。さすがのパトリシア・コーンウェルらしい荒さである。このエピソードひとつでどういう作風かわかるであろう。

今回は火災にまつわるミステリーということで、いつもと展開が違っていておもしろい。火事による高温の炎上の考証などはよくできている。サラ・パレツキーにも火災がテーマの巻があったし、『火災ミステリー』というひとつのジャンルがあるのかもしれない。


内容紹介
電話はマリーノからだった。昨晩、農場で火災があり、何万ドルもする馬が20頭焼け死んだという。バスルームで発見された身元不明の死体の顔には、無数の傷が。自殺か、事故か、放火か?それはスカーペッタを襲う身も凍る惨劇の前触れだった。事件の背後にちらつく脱走犯キャリーの影。検屍官シリーズ最大の危機! 〈検屍官シリーズ〉第9弾。(講談社文庫)
内容(「BOOK」データベースより)

【パトリシア・コーンウェル】
マイアミ生まれ。警察記者、検屍局のコンピューター・アナリストを経て、1990年『検屍官』でデビュー。MWA・CWA最優秀処女長編賞を受賞して、一躍人気作家に。バージニア州検屍局長ケイ・スカーペッタが主人公の検屍官シリーズはDNA鑑定、コンピューター犯罪など時代の最先端の素材を扱い読者を魅了、’90年代ミステリー界最大のベストセラーとなる。
【相原真理子】
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。レスラー『FBI心理分析官』(早川書房)、カリール『外科医』(平凡社)、チャールズ『死の誘い』(創元推理文庫)、コーンウェル『検屍官』『証拠死体』『真犯人』『私刑』『接触』『スズメバチの巣』(以上、講談社文庫)など、翻訳書多数。





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2017年5月5日金曜日

小説がうまくないのをグロで補う:『私刑』パトリシア・コーンウェル(1995年)|今日のミステリー


パトリシア・コーンウェルの『私刑』である。1995年。2000年代のパトリシア・コーンウェルを続けて読んできたが、今度は90年代。これが今回読んだ中では一番、初期のやつである。

パトリシア・コーンウェルの肩書きに『90年代のベストセラー作家』というのがあるが、その意味がわかった。この人は昔の方がはるかに出来が良い。欠点は相変わらずで、その部分は晩年と同じなのだが、初期の頃は欠点を補う緊張があった。

近作はその緊張感が保てなくなって、欠点ばかり残ったということなのだな。とはいえ、欠点は相変わらずで、たいしたネタでもないのに話を引っ張って終わらせない。この出来の良い巻も主要犯人は捕まるが、その相方の女性が逃げ延びて、この後の巻にえんえんと出てくる。

出してくるのは作者の自由なので問題はないのだが、書きっぷりを見ているとトマス・ハリスの『レクター博士』レベルの大物猟奇殺人鬼のつもりでいるらしい。しかし、パトリシア・コーンウェルの殺人鬼は実はどれもたいした魅力を持っていない。

むしろ、一巻に一人出してちゃんと逮捕して解決して終わらせていた方が、締まった話になっていただろうと思う。出しても2回までだな。

そのほか、パトリシア・コーンウェルの重大な欠点として、キャラクター描写がへたというのがある。それは晩年になるとさらに目立ってきて、また、それは、出てくる大物猟奇殺人鬼の魅力の乏しさの原因でもある。

まず主人公のスカーペッタ自体があまり魅力的な人間だとは思えないのだが、それを言ったらおしまいなので、見ないふりをするとしても、とくに書けていないのが、重要なレギュラーキャラクターの一人のマリーノ警部だ。

非常識な荒くれ刑事で政治的にも偏見の持ち主で、人種や女性の差別発言を繰り返すが、本当は良いやつ……というはずなのだが、これがうまく書けていないので、単に嫌なやつにしかなっていない。こんな感じの微妙な人間は、サラ・パレツキーなどは書かせると絶妙でうまいのだが、そもそも、パレツキーなら、こういうステレオタイプなキャラクターは出してこないだろう。このへんのさじかげんがパトリシア・コーンウェルは実にへただ。

このマリーノ警部も現実にいて呼吸をして生きている感じが全くしない。『映画や小説によく出てくる本当は良いやつだが態度の悪い強面刑事』を出してみた、という感じしかしない。あきらかに身近にこういう人間がいなくて、映画などで見た人間をもとにキャラクター造形をしていると思われる。

もちろん、それで悪いわけではなく、一流の映画や小説でもみんなやってるとは思うのだが、それらとの違いは、描写力がないためにリアリティを出せていない、ということだろう。

これだけの欠点がありながら、近年はともかく、まだ初期の、この小説はなかなか面白い。90年代にベストセラーを連発したのもわかる。小説があまり上手に書けていない、という欠点を補っていたのはなにかというと、身も蓋もない話だが、単なるグロ趣味だろうと思う。

あの頃はトマス・ハリスなどの猟奇趣味のサイコサスペンスが流行っていたので、そのへんを10倍くらいに薄めて、一般読者でも読みやすくした……、というのがパトリシア・コーンウェルの売れた理由だと思う。

この手は今でも、まだ、いけるんじゃないかな。


内容紹介
凍てつくような冬のニューヨーク。ひらひらと雪の舞うセントラルパークで名もなき女が無惨な死体で発見される。恐怖の殺人鬼ゴールトが遂にその姿を現わす。スカーペッタ、マリーノ警部、ベントン捜査官の必死の追跡が続く。やがて明らかにされるゴールトのおぞましい過去。検屍官シリーズ、戦慄のクライマックス! 世紀のベストセラー「検屍官シリーズ」好評第6弾! (講談社文庫)
内容(「BOOK」データベースより)

【相原真理子】
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒。レスラー『FBI心理分析官』(早川書房)、カリール『外科医』(平凡社)、コーンウェル『検屍官』『真犯人』『遺留品』(講談社文庫)等、翻訳書多数。




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2017年4月24日月曜日

今日の閉店:若鶏専門店 市村商店が閉店|松陰神社前商店街


今日の閉店。松陰神社前商店街の市村商店が閉店。張り紙にたくさんのねぎらいの言葉が書かれていた。

昨日は久しぶりに松陰神社前商店街まで小走り。久しぶりに行ったら、古い鶏肉屋が閉店していた。小さな市場みたいな一角があって、その中の店だ。

あつかうのが鶏肉専門というのが珍しい。生肉と作った惣菜を売っていて、たぶん惣菜の売り上げが中心だったのではないか。モモ焼きとかそういうのを売っていた。うまそうなのでそのうち買おうと思っているうちに、ここも閉店してしまった。

この市場だが、隣は鶏肉屋は演歌のカセットテープ屋である。これも古い。どう見ても、ほとんど売り上げはないと思うのだが、どうやって生計を立てているのか。常に生計に困って生きているのでコツを聞きたいものだ。
 

有名ホテル・レストラン御用達 ひな鳥直売所。こういうのが売りになっていた、時代があったのだな。


若鶏専門店 アサヒブロイラー特約店 市村商店。


有名ホテル・レストラン御用達 ひな鳥直売所 株式会社アサヒブロイラー特約店。

近所のおばさんも驚いて見ていた。

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2017年4月23日日曜日

毎回クライマックス・シーンを省略するという謎の作風:パトリシア・コーンウェル『黒蠅』|今日のミステリー


パトリシア・コーンウェルを集中的に読む。続いては『黒蠅』である。2003年。

調べてみるとパトリシア・コーンウェルは『90年代のベストセラー作家』という紹介がされていることが多い。だから、2000年代に入ってからは、すでに全盛期が過ぎているということではあるんだろうな、と思う。

作品内容にもそれは言えていて、ただ、けっして悪いというものでもない。どれもそれなりに良い。ただ、やたらと欠点が目につく。この世には、読んでいるのさえ苦しくなって、途中でやめる小説もあるのだから、パトリシア・コーンウェルは、その段階はクリアしてると言えよう。

今回は『羊たちの沈黙』のクラリスを小型化したような初々しい女性警察官が登場する。スカーペッタよりはるかに好感が持てるので、活躍を期待したが、前半はよく出てきたのに後半はどこかに消えてしまった。もしかして、行き当たりばっかりで書いてるのか。

アルセーヌ・ルパン時代の大衆小説ではあるまいし、そういうことはないと思うのだが、このへんの計算がパトリシア・コーンウェルはヘタなんだな。今後、こっちの女性警察官を多く出すと良いと思うが、この回だけの使い捨ての気がする。

あきらかに身体障害者の殺人鬼が登場する。これは、漫画だと完全にNGだがパトリシア・コーンウェルだと良いのか。

パトリシア・コーンウェルの大きな問題点の一つが今回も炸裂。この人はクライマックスを書かないという信じがたい悪癖がある。今回だけかと思ったら、他の本でも毎回やっている。計算してやってるとしたら、その狙いを理解できない。

一番、かんじんな部分は読者の空想力に自由に任せたいのです、とでも言うのだろうか。または、話を終わらせないで次回に続けるため、なのかとも思ったが、犯人が逮捕されてる場合でも、書かないからな。

小説を書く力がないので、一番盛り上がる部分を書いて失敗しないように、書かないで終わらせてるんじゃないか、という邪推すらしているがどうなのだろうか。

今回も、あと5pくらいしかないが、どうやって終わらせるのかと思ったら、次のページをめくったら、全部終わっていた。10年前のインターネットなら、『全部終わっていた(笑)』と書くところである。

刑事が乱入して、主要犯人は逃亡、小物が射殺された、と二行くらいで済まされていた。なんだこりゃ。ちょっと驚いたな。これでいいのか。

スカーペッタ・シリーズの致命的な欠点のひとつにスカーペッタが検屍官である、という根本的なものがある。刑事じゃないので、あたりまえだが、捜査をするわけでもなく、犯人を逮捕するわけでもないのだな。

そのために、主人公が逮捕シーンにはあまり関係ない、活躍のしようがない、というのが、このようにクライマックスがなくなってしまう原因の一つかもしれない。

ここは頭を使って、どうにかしてスカーペッタが逮捕シーンにからむようにエピソードを工夫して、あと100Pくらいページを増やしたほうが、読者がカタルシスを体験できて良いと思う。

他にも欠点がいろいろ見えているのだが、それはあとの回で書く。


内容紹介

バージニアを離れ新天地を求めた彼女。だが悪夢は終わってはいなかった。検屍局長辞任から数年後、フロリダに居を移したスカーペッタに、死刑囚となった〈狼男〉から手紙が届く。「あなたが死刑を執行してくれ。さもなければ、また何人もが命を落とす」時を同じくしてルイジアナで女性ばかり10人もの連続誘拐殺人事件が発生。彼の犯行ではないのか? 検屍官シリーズ待望の第12弾! (講談社文庫)
内容(「BOOK」データベースより)

検屍局長辞任から数年後、フロリダに居を移したスカーペッタに、死刑囚となった“狼男”から手紙が届く。「あなたが死刑を執行してくれ。さもなければ、また何人もが命を落とす」時を同じくしてルイジアナで女性ばかり十人もの連続誘拐殺人事件が発生。彼の犯行ではないのか?検屍官シリーズ待望の第12弾。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

コーンウェル,パトリシア
マイアミ生まれ。警察記者、検屍局のコンピューター・アナリストを経て、1990年『検屍官』で小説デビュー。MWA・CWA最優秀処女長編賞を受賞して、一躍人気作家に。バージニア州検屍局長ケイ・スカーペッタが主人公の検屍官シリーズはDNA鑑定、コンピューター犯罪など時代の最先端の素材を扱い読者を魅了、1990年代ミステリー界最大のベストセラー作品となった

相原/真理子
東京都生まれ。慶応義塾大学文学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)




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2017年4月21日金曜日

このメンヘル女性がどうして検屍官トップになれたか疑問だ:パトリシア・コーンウェルの『変死体』|今日のミステリー


パトリシア・コーンウェルの『変死体』である。2011年。

今回、まとめてパトリシア・コーンウェルを読んでみた。主に古本屋の100円コーナーに放り投げられてるのを集めてくる作業になる。パトリシア・コーンウェルは登場した90年代に一冊読んだだけだ。その時は特に関心する部分はなく印象が薄かった。

サラ・パレツキーを集中的に読むという作業は、なかなか楽しいものだったが、こちらはどうだろうか。結論としては、なかなかひどかった。しかし、それなりのクオリティはあるので、気楽な娯楽として読むにはいいと思う。

欠点と欠陥と特徴が読んでると、どんどん見えてくる。いろいろあるのだが、一番問題なのは主人公の不安定さだ。身も蓋もなく言ってしまえばメンヘルなのである。

この本では主人公ケイ・スカーペッタは州の検屍官のトップにまで出世しているのだが、厳しいアメリカ社会でこんなメンヘルな人がトップになれるとはとても思えない。

今回はかつて抜擢した人間が悪の道に足を踏み外してしまう。それをずっと自分のせいだと悩んでいる。

サラ・パレツキーの主人公V・I・ウォーショースキーなら、『父がよく言ってた。誰にでも失敗はある。失敗をいつまでも悩んでいるのは、あほうのすることだ』と2行で終わらせているところである。

それを上下二冊に渡ってくどくど悩んでいるのである。『苦悩する主人公』という共感をもたせたいのだろが、これでは、単なるメンヘルであろう。

そもそも、相手だって大人なんだから、客観的に言って主人公に責任はないと、読者は読んでいて思うと思うのだが、パトリシア・コーンウェルは、そのへんの推測ができないようだ。小説家としての勘が鈍いのだな。

非常に欠点と長所がわかりやすい人なので、書きたいことはいろいろあるのだが、今日はここまで。


内容紹介

スカーペッタが責任者に就任した法病理学センターがある街で、犬と散歩中だった若者が心臓発作で倒れ、死亡が確認された。だが、外傷のなかった遺体から、翌日、大量に流血していることがわかった。それは彼が生きたままモルグの冷蔵室に入れられたことを意味していた! 緊迫の検屍官シリーズ第18弾。(講談社文庫)
内容(「BOOK」データベースより)

コーンウェル,パトリシア
マイアミ生まれ。警察記者、検屍局のコンピューター・アナリストを経て、1990年『検屍官』で小説デビュー。MWA・CWA最優秀処女長編賞を受賞して、一躍人気作家に

池田/真紀子
1966年東京生まれ。上智大学法学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)




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